株式会社セイエンタプライズは1978年に創業し、今年で46年を迎えました。
創業者の平井進(ひらいすすむ)は、1960年代にデータアーカイバ(情報を保管する倉庫)の創業に携わっており、データを100年保管するならば、データを提供するオペレーターの食料も同じ期間保管が出来なければいけないと考え、25年の賞味期限を持つサバイバルフーズの販売を開始しました。
現在、サバイバルフーズは全国の自治体や官公庁、病院、福祉施設、学校、企業、団体~個人にいたるまでの様々なお客様に備蓄をいただいており、備えることでの安心を日本中にお届けしています。
約半世紀にわたり食料備蓄の一端を支えているサバイバルフーズの考える、災害とその備えをご紹介し、そしてこれからのサバイバルフーズや非常食に求められることについて考えたいと思います。
まずは災害が起こると、私たちはどうなってしまうのかを「災害サイクル」という考え方で説明いたします。
災害が起こると、我々は一瞬何が起こっているのかが分からない失見当という状態になります。
この状態(茫然自失~反対にアドレナリンが出て活動的)の継続は、災害の規模やその時の精神状態などに左右され、早ければ数秒で、長ければ数日間継続します。
次に我に返り、自分の置かれた状況を理解し、家族の安否や被害状況の確認、明日以降の寝るところ、食事や水の調達や準備など、当面の生活基盤を整えるための活動をするサバイバル期に入ります。約10~100時間ほどの時間がこの活動期にあたります。
そして避難所や在宅避難など、一時的に生活する場所がきまり、そこには自分たち家族と同じように災害を経験した仲間がいます。
同じ体験を共有した者に会うことで得られる安堵感や一体感から、災害後のユートピアと言われる被災地社会独特のルールに基づく、どこか高揚した、精神的に穏やかな時間が訪れます。約100~1000時間(1か月ほど)
この状態は長くは続かず、避難所からより安定した生活の場への移動や、仕事・学校などが再開し、平常時の社会への復旧が始まります。いち早く復旧ができる者と、なかなか新しい平常生活に慣れない者の間に差が生じます。この復旧期は、約1000~10000時間(1年)ほど続きます。
その後も復旧は続き、場所によっては以前の状態よりも活気があるような、復興期を迎えます。10000時間~1000000時間(10年)を目安に考えます。
そして、やっと災害の影響がなくなり、静穏な状態が訪れますが、それは地震の予知や新たな災害の予兆によって、次に訪れるかもしれない災害への準備期間となります。
そしてまた予期せぬ災害に遭遇するのです。このように考えれば、災害のサイクル(図1)が見えてきます。そして、我々は常に災害と災害の間に生活をしていると考えられるのです。
ですから、私たちには常に備えている事が求められています。備えとは、生活をするための備えと言うことです。備えはどの生活を基準と考えるかで二つの方法に分かれます。つまり、日常生活の水準に合わせるのか、非常時の生活水準に合わせるのかです。災害時や避難所での生活にストレスを感じるのは、その生活が日常的に行っていることと比較して大きく制限があり、差(ギャップ)があるためです。少しでもこの差を埋めることが備えとなります。
サバイバルフーズはこの事を、「非日常は日常の延長線上にあり、ある時ある瞬間から非日常となる」と表現します。
ですから、非常食は日常の食に合わせて、おいしい非常食を選ぶべきなのです。
サバイバルフーズの考えるおいしいとは、普段の食事に遜色がないことです。普段の食事をするときに、私たちは何をおいしいと感じているのでしょうか。それは、1)生存欲求(生理的な欲求)2)食文化に合致する(文化的欲求)3)情報がおいしい(情報欲求)4)生化学的欲求(うまみとか) 5)人が集まるとおいしい(行動生理学的欲求)の5つあります。
もう少し詳細に説明をいたしますと、1)お腹が空いているとおいしく感じます、2)その国や地域の人の舌にあった食事、そして家庭の味はおいしいと感じます、3)情報サイトで点数が高いお店はおいしいと感じます、4)おダシや砂糖、油をおいしいと感じます、5)みんなで食べる食事はおいしいと感じます。
私たちは普段、ただエネルギー(カロリー)や栄養素を食べているのではなく、だれと食べるか、どんな話をするのか、照明、食器、音楽、雰囲気、そうした総合的な要素が組み合わさった食事をしています。
ですから、災害時だからこそ、少しでも食べる環境(誰と一緒に、どんな会話をしながら、温かい雰囲気の中で)にこだわった、おいしい食事が必要だと考えています。
また、サバイバルフーズは備蓄食と言っています。備蓄とは、非常食の持つ、どことなく受身的な意味(非常時に配られる食)と違い、より積極的に主体的に備える意思(自ら備える食)が感じられる言葉です。サバイバルフーズは、非常食ではなく備蓄食との言葉を選び、少なくとも10年の賞味期限が無ければ備蓄食ではないと考えています。
次に、この半世紀の非常食のニーズの変遷を確認しましょう。防災を考える際に、自助・共助・公助との支援の主体による区分がありますが、この区分に沿ってニーズの変遷が説明できます。
株式会社セイエンタプライズが創業したころ、1970年代は公助が中心の時代でした。この頃に東海地震説が有名となり、その予知を基本とした対策である大規模災害対策特別措置法(1978年6月)が制定されました。公助とは、国や自治体等の行政組織による国民や市民への支援です。公助の時代の非常食は、すべての国民に平等に公平に配布されることを目的とするため、予算も限られる中で口さみしさを紛らわす乾パンなどの非常食の備蓄が中心となりました。また、この当時の非常食の備蓄は、関東と静岡を中心とする東海地区の一部自治体に限られていました。
1990年代は共助の時代でした。1995年1月に都市直下型の大きな地震、阪神淡路大震災が起こりました。誰もが地震は関東や静岡で起こるものと思い込んでおり、関西圏では起こらないと信じていましたが、この地震により、いつでも何処でも地震が起こりえる事が明らかになりました。また、阪神の地震では、多くのボランティアが活躍することとなり、その後の地震災害での互助・共助(助け合い)の在り方の基本が作られました。共助の時代の非常食は、援助者が被援助者に配る非常食であり、より馴染みのあるお米(アルファ化米)などの個装の袋に入った非常食やパンの缶詰などが求められるようになりました、またこの時代、非常食の備蓄は、全国の自治体に広がりました。
2010年代は自助の時代です。2011年3月の東北太平洋沖地震により、直接に被害を受けた東北地方だけでなく、福島の原子力発電所の事故による影響で、関東や関西までも、間接的に電力不足の被害を受けることになりました。また、メディアの情報発信により、原子力発電所の爆発や被災地の様子などを直接的に見てイメージ体験することになり、自分と自分の家族の安全は自分達で守らなければ行けないことを誰もが実感しました。自助の時代の非常食は、自分と家族のために用意されるものですから、自分の好みが優先されてよくなりました。より美味しいものが求められ、味はバラエティに富み、お菓子の非常食など、嗜好品もラインナップに加わります。創業の頃より、災害時にはおいしい備蓄食が必要であると提案していたサバイバルフーズに時代が追いつきました。
2024年1月1日に能登半島地震が起きました。この地震で亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、被災地の一日も早い復旧・復興を願っております。
さて、地下での流体による地殻変動という珍しい現象、半島での地震によるインフラ復旧の遅れ、揺れの被害、津波の被害、火事の被害という複合的な被害、等々の特徴的な点がたくさん挙げられる中、私が注目するのは避難所での生活です。今回の地震では避難所のトイレのことや衛生条件についての注目度が今まで以上に高いと感じられます。お年寄りが多い地域であることもあり、避難所での生活の質の向上についての言及が各県市の首長やボランティア、メディアよりなされています。中でも、健康を維持するための運動、睡眠、そして食事への言及が目立つようです。
サバイバルフーズは、災害時の安心をお届けしていると考えています。この安心の大前提として健康があるのではないかと考えました。被災することで、被災前の健康状態が悪化することを私たちは防ぎたいと思っているのではないでしょうか。そのために防災という備えをしているのではないでしょうか。そして、この備えは災害前から始まり、被災している時はもちろん、災害後も続きます。健康でなければ、いざというときに逃げることはできません。
改めて、非常食が健康に貢献できることは何かと考えてみると、災害時に活動するエネルギーの補給、おいしい・温かい食事をとることでの心理的な安心感、そして身体を作る微量栄養素の補給などが挙げられます。なるほど、栄養補給(栄養バランス)は重要そうです。
私は先の章で、非常食には普段と変わらないおいしい食事であることが求められていると書きました。そこで、ベンチマークとしての普段の食事から栄養バランスを考えてみることにします。
すると、私たちの普段の食事には、ビタミンやミネラルなどが意外と不足していることが分かります(令和元年国民健康栄養調査と日本人の食事摂取基準2020を比較してほしい ex.
20歳代~50歳代のビタミンB₁・ビタミンB₂・ビタミンCの摂取量は、いずれの世代でも厚生労働省の考える推奨値に達していない、その他の栄養素も不足傾向にある)。
私たちの普段の食生活では十分なビタミンやミネラルが摂れていません。まして、災害時には、物資の不足や物流の混乱により避難所等での食事は炭水化物に偏りがちで、普段から少ない微量栄養素はもっと不足する可能性があります。
そこで、サバイバルフーズ・サプリメント(マルチビタミン&ミネラルとビタミンC)を開発、昨年発売を開始しました。7年長期保存のサプリメントで、災害時に不足する微量栄養素を補填する有力な手段だと考えています。今回の地震でも、被災地で栄養療法を実施されておられる医師や、日本栄養士会を通してサバイバルフーズ・サプリメントを援助物資として被災地に送らせていただきました。
ここで、災害フェーズを思いだしてください。サバイバル期の私たちは突然の災害で大きなストレスを感じます。ストレスにより、私たちの体の中では、例えばビタミンCやパントテン酸(ビタミンB₅)の需要が増加します。そして、このストレスフルな状態が数か月も続く可能性があるのです。しかなしながら、不足しがちな栄養素を補う手段(避難生活での食事)は、普段の食事よりも栄養素が不足しているのです。災害時の健康を考えるならば、この部分に対しても何かの対策が必要です。
厚生労働省は、避難所の食事に対して指針を出しています。避難所での食事に、ビタミンCを100mg、ビタミンB₁を1.1mg、ビタミンB₂を1.2mg、一人一日に最低限摂取できるようにとの指導です。(避難所における食事提供の計画・評価のために当面目標とする栄養の参照量 厚生労働省)
個人的には、これでもまだ不足だと思うのですが、大きな前進であることは間違いありません。これからの非常食に求められるものは、ただおいしいだけではない、おいしさの先、栄養バランス、さらにその先の健康に貢献することであると考えます。